コミカライズではなく、オリジナルの原作を冲方丁が制作した漫画は現時点では『ピルグリム・イェーガー』と『シュヴァリエ』の2作品である。
『ピルグリム・イェーガー』はヤングキングアワーズにて伊藤真美が作画を担当して連載された。6巻にて第1部終了。
2003年に『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞を受賞し、作家として人気を獲得していくこととなった冲方丁であるが、『ピルグリム・イェーガー』の連載開始時点では、初期の長編『ばいばい、アース』が発売されていたくらいであり、おそらく作家としてはほぼ無名だったはずである。(現在は文庫で容易に入手できる『ばいばい、アース』も当時は特殊な形態で発売されたため、極めて入手困難だった)
しかしながら、この時点で既に、細部にこだわる、熱いシナリオの作り方はほぼ完成されていたようで、伊藤真美の作画と相まって半端ない面白さをもつ作品となっている。
物語は、宗教改革前夜のイタリアを舞台に、免罪符を求めて旅をする異能の芸人アデールとカーリンが、ローマ焼却を目論む“七人の大罪者”と、それを阻止しようとする“三本の釘”および“三本の釘”の手駒たる“三十枚の銀貨”の戦いに巻き込まれていく話である。
なお、“三十枚の銀貨”の中には、イエズス会のフランシスコ・ザビエルやイグナティウス・デ・ロヨラや芸術家のミケランジェロといった実在の人物も含まれている。
とはいっても、ザビエルは美少年、ロヨラは蹴技使い、ミケランジェロは怪力マンと特殊なキャラ設定がなされているのだが。
この作品のなりよりの面白さは、当時の複雑な社会情勢を緻密な考察をもとに再現した世界観の中で、登場人物がほぼ全員、別の思惑をもって行動していることである。
まったく別々の目標をもって集う人々は、それゆえに疑心暗鬼に陥ったり、それを超えて絆を手に入れていったりしてる。
また、後の『マルドゥック・ヴェロシティ』につながるような、異能力者同士の壮絶なバトルも大いに魅力的である。
キリスト教が腐敗していく中で、信仰と人間の尊厳の在り方が話の重要なテーマとして何度も提示されており、教会も権威も関係なく、ただ純粋な信仰に生きるアデールと、権威を恐れ、人間としての弱さをもつカーリンはその対になる象徴であったと考えられる。
原作だけでなく作画を担当した伊藤真美も超絶な作画能力をフルに稼働。
伊藤先生の他作品を読んだことない(というか、本格的な連載はほとんどしていない)が、構図やコマ割りにめちゃめちゃこだわる人のようで、ダイナミックな演出はとても素晴らしいと思う。
敵も味方も聖書の言葉を引用しながら戦う重苦しい雰囲気の表現が上手い。
この作品のおかげで、「汝、今宵の鶏鳴を待たずして、三度我を否むべし」という聖書の一節を覚えた。確実に誤った印象の下での知識だし、いったいいつ使うつもりなのかという知識ではあるけど。
聖書の言葉や、タロットカードからつけられた“三十枚の銀貨”のコードネーム、多数の登場人物と、複雑なヨーロッパの政治情勢と、理解しやすい漫画ではないが、はまる人は相当はまり込む魅力に溢れた作品である。
立ち読みとかより、家でじっくり読むことをおススメしたいですね。
6巻で第一部終了後、2年超連載がとまったままである。
冲方丁は現在雑誌「野生時代」で『天地明察』を連載中な上に、今年『マルドゥック』シリーズ最終章および『シュピーゲル』シリーズの最終章の開始を予告しており、09年中の再開は厳しいような気もするが、そろそろ続きをやってほしいものである。伊藤先生の仕事の都合もあるだろうし、できるときに是非!
なんせ、第一部では、“三十枚の銀貨”のうち半数はまだ未登場だし、“七人の大罪者”にいたっては、まだ1人しかでていないオープニングが終わったばかりなのだから!
2006年放送
サンライズ/谷口悟朗監督
今更、『コードギアス』、それも第一シリーズの感想という中途半端に時期がずれてる感がえらく恥ずかしい今回。
観終わった感想としては
面白かった。
いや、皮肉ではなく。
確かに折にふれて細部がめちゃめちゃアバウトになるし、演出過剰なキャラクター達のセリフや仕草はどうしようもなく笑ってしまったけど。
本質的にひねくれ者な私は、あの高笑いを観て「ルルーシュ!ルルーシュ!ワー!!」とはなれないのだ笑。
ただ結局、ああいった色々とオーヴァーな雰囲気が『コードギアス』を『コードギアス』たらしめていたのだろうし、話題にもなったんだろうなぁ。
もうネットとかでも散々話題になったあとだろうから、あらすじとか考察はする意味もなかろうて。
吹き出したり、テレビに向かってツッコんだりしながら観ていたにもかかわらず、22話「血染めのユフィ」を観て本気でショックを受けてしまい、翌日あたりは凄い凹んでた。
「何?何かあったの?」と人に聞かれても
まさか「ユーフェミアがね…」などと語るわけにもいかず。
どんだけ入り込んでんねん。
第2シリーズがあることを前提にしたエンディングだから、最後に関してはあまり思うことはなかったけど、あの盛り上がりは良かった。
やっぱり谷口監督は徹底的にエンタテイナーなんだと思う、良きにせよ、悪しきにせよ。
好きな登場人物は技術部のロイドとセシル、あとはディートハルト。
なんか全体的に、BLにするために生まれてきたキャラばっかりだったような…。
あと後半のOPは好きだった。
…皮肉ではなく。
主題歌「解読不能」と、グラフィックが良かったと思うんだけど。特に、ユーフェミアとスザクが手を取ってグルッと回ってからのスザクの顔のアップ、切り替えて技術部の3人のところあたりが。
歌詞カードを見ても、何言ってるのかは聞き取れなかったけどね。(何度聞いても「等間隔」が「トォカンカァ」にしか聴こえませんから~!)
とりあえず、レンタルが旧作扱いになったら2期も観てみる。
その前に気になってネタばれをネットで見てしまいそうな気がするけど。
まだ観てない人はウィキペディア見ると終わるから気をつけて!
『ヒロイック・エイジ』は2007年に放映されたTVアニメ。2004年のヒット作となった『蒼穹のファフナー』のスタッフが再結成する形で制作された。
昨年1月に『マルドゥック・スクランブル』(ハヤカワ文庫JA)を読んで以来、冲方さん大好き!なんで、マルチに活動する小説家の冲方丁が関係したモノは全部読もう、観ようと思っていた。
シナリオに関与したTVアニメは3作。
『蒼穹のファフナー』『ヒロイック・エイジ』『シュヴァリエ』。
『ファフナー』に比べてかなり認知度も人気も低い雰囲気だけど、こちらもめちゃめちゃ面白かった。
はるかな未来、宇宙に進出した人類は、先に宇宙に進出した『銀の種族』に滅ぼされようとしていた。人類の若き王女ディアネイラは、戦闘母艦アルゴノートにて、人類の最後の希望=ノドスを捜索し、ついに見つけ出す事に成功する。人類のノドスであるエイジは、『銀の種族』を退け、人類を救う事ができるのか?(Wikiより抜粋)
何といっても冲方作品の魅力は、ピンチに誰かが助けに来たり、死を覚悟で頑張ったりする熱すぎる展開と、超緻密に練られたシナリオである。
ラストに「は?」となることなく「観てよかった~」と思わせてくれる。(『ファフナー』のラストは賛否両論だったらしいが、私は素晴らしかったと思う)
『ヒロイック・エイジ』も、伏線を次々に回収していった後に、あのエンディングはもう泣くしかないでしょう。
作品としてはSFの形態をとっているけど、実質的には神話だったと考えられる。
モチーフは多分ギリシャ神話。
そもそもの基幹設定となっている「黄金の種族」「銀の種族」「青銅の種族」「英雄の種族」「鉄の種族」はギリシャ神話の用語のはずだ。
エイジのモデルは、体に宿す英雄の種族の名前がベルクロスであることから、音の近いヘラクレスだと思う。。
他にもヒロインのディアネイラはヘラクレスの奥さんの名前だったり、宇宙船アルゴー・ノートも同様であり、他にも気付いてないだけで一杯ありそう。
実質的に全能の“神”を表していた「黄金の種族」。
「黄金の種族」と同じ世界へと旅立っていった「銀の種族」さらにはディアネイラもまた“神の領域”へと到達したんじゃないかなと。
ディアネイラが不在となる世界は再び神の時代が終わり、人類がさらなる発展を目指して進んでいくことになる。
そういった神話的な意味合いをエンディングで感じた。
シナリオだけじゃなくて、『コードギアス』みたいにイキりすぎて、つい笑っちゃうような演出を避けてるのも『ファフナー』同様のスタッフの良さだと思う笑。
正直『ファフナー』よりも『ヒロイック・エイジ』の方が好きだなぁ。タイトルにめげずに観て欲しいっす。
まだ観てないアニメの『シュヴァリエ』は好きなアニメ『KURAU』と同じ人がキャラクター・デザインしてるみたいで楽しみなことこの上なし。
全19巻。
アフタヌーン
92~00年
good!アフタヌーンにて新シリーズが8年ぶりに開始されている。気になってたんで漫喫で旧シリーズを読んでみた。
もう、なんか凄すぎて何も言えねえ…。そこはかとなく北島っぽくなりましたね。あんまり今のテンションではいつも以上に大したこと書けなそうな気配で満ちているぜ。
必要と判断すれば即射殺する超絶アウトロー刑事の漫画なんだけど、…その密度、迫力凄すぎる。
こんなにカッコイイ、アウトローものは映画にもないと思う。
これはリアルタイムで読んでた人たちは、復活に熱狂するだろうなぁ。
基本的には単行本1冊で収まる物語が、何件も続く形。当時の社会的出来事が多くモチーフに使われている。(神戸の連続児童殺傷事件とか)
最初の頃こそ、いかにも初期の作品っぽい作画だったけど、連載が進むにつれて今の画にまで到達。
高橋ツトムの凛々しい美男美女は神!飯田刑事と相沢刑事がきてます。
ちょうど来月から完全版全10巻が発売されるんで、買おうと思う!っていうか高橋ツトムの作品全部集めたい!
多くの名ゼリフに彩られる作品の中から好きなものを一つ。
ーあなたにとって死とはなんですか?
ー敗北。
いつか言ってみたい笑。
岩井俊二監督作品
1998年
主演;松たか子
あまり人に堂々と言えないような理由から、北海道は旭川から東京の大学へと進学した女性の期待と不安の日々を描く作品で、70分弱とごくごく短い映画である。
岩井監督作品は『花とアリス』と『リリイ・シュシュのすべて』の二つしか観たことないから、あまり詳しいわけではないのだけども、その画面の美しさが凄く良いなぁと思っていた。
『四月物語』でも画面の美しさは流石なもので、オープニングからしばらく続く桜吹雪の美しさは、日本人なら見とれてしまうこと請け合いである。
話としては、本当にアップダウンのない話であり、ハリウッド映画のようなエンターテイメントを求めて映画を観たら、メチャメチャ退屈すると思う。
ただ、主人公が大学に入学したばかりで、右も左も分からないままに馴染もうと試行錯誤する様に感情移入できる人は好きな映画だろうなぁ。
何より、引っ込み思案で、おどおどしながら「性格は明るい方だと思います」と自己紹介する主人公・楡野を演じる松たか子が素晴らしい。
ちょっとした仕草や表情に色々な感情が観られて、もううっとりしてしまうね(笑。
『花とアリス』の蒼井優の魅力も心を奪ってやまないものがあったけど、こういう演技を引き出すのも監督の力量なのだろう。
ラストも綺麗な終わり方で、そこはかとなくホッと落ち着く映画だった。やっぱり自分は岩井監督が好きなような気がする。色々観てみよう。