『イエスタデイをうたって』とボク
以前、今まで読んだ中で一番好きなマンガとして冬目景の作品『羊のうた』を挙げた。
もう一つ同じ冬目景の作品についてグダグダ書かせていただく。
『イエスタデイをうたって』(通称;『イエうた』)は、mixiの冬目景のコミュニティ内で行なわれている「一番好きな作品」というアンケートで現時点において断トツの一番人気を誇る作者の代表作である。
自分にとっても初めて読んだ冬目作品であり、初めて集めた青年コミックであり、思い入れの深さは、それはそれは深いものでがある。
もはや「好き」とかそういうのとは別次元に自分の中に置かれているマンガといって過言はない。
超簡単なあらすじ
大学卒業後、フリーターとなった魚住陸生(リクオ)は、大学時代の同級生・森ノ目榀子(シナコ)のことが忘れられない。そんなリクオは、ある日カラスを飼ってる変わり者の少女・野中晴(1巻当時18歳くらい)と出会う。実はハルは中学時代に一度リクオと出会っており、その時からリクオに想いを寄せていた。
一方、リクオの想い人の榀子は、高校生の時に死んでしまった幼なじみがいつまでも忘れられずに一度帰った実家の金沢から逃げるようにして戻ってきた東京で教師をしている。さらに榀子の幼なじみの弟・早川浪(ロウ)もまた、幼少時からずっと榀子への不毛な恋を続けていてー。
という、主要な登場人物が皆、報われない想いの中に日々を過ごしている話である。
まぁコメディ要素も強い話であり、重かったり暗かったりすることはあまりないのではあるが。
『イエうた』は、平成10年にビジネス・ジャンプで連載が始まってから10年以上が経つが、既刊は6冊と、かなりゆったりとしたペースで続けられており、現在は半年ほどづつの期間でBIRZの『幻影博覧会』と交互で掲載されている。
もはや冬目景のライフワークと化している面もある『イエうた』は高橋留美子へのリスペクトも含まれていると考えられる。
榀子の幼なじみが回想で描かれる時にいつも顔が黒く塗りつぶされているところなどは、『めぞん一刻』でも同様の演出がなされているし、榀子自体にも管理人の音無響子の影響がありそうだし、穿ってみれば、ハルにも冬目景が同人誌を作り、「永遠のアイドル」というラムちゃんのキャラが反映されているとも考えられそうだ。
冬目景の作品は多くの魅力的な女性キャラに彩られてきたが、ハルと榀子の人気はその中でも屈指のものがあり、作品の人気の理由の一つでもある。ファンと会えば、「ハル派?榀子派?」の話題を振ると結構盛り上がる。ちなみに自分はハルちゃん派です。
物語は、恋の甘さ、切なさとかよりも、あまりに長い膠着状態による倦怠感、逆に変化が訪れると戸惑いを感じている様が出ているように思う。
全体的に、周りで何かが起きるという外的事象よりも、彼らが何を思うかという内省的な面が重視されており、そういった意味で文学的であるとさえ言える作品である。
また、半年のシリーズごとに中編の連作として様々なドラマも進んでおり、ハルの母親、映画作りに励む高校生達、ハルに片想いしていた高校の同級生の湊航一、リクオの高校時代の元カノの柚原チカ、浪の通う予備校のカップル(『ももんち』にも登場)と多くの人々が一時彼らと関わり、何かを残して舞台から去っていた。
劇中でも3年の月日が経ち、主要なキャラたちも、徐々に前向きになりつつあり、恋愛関係にも少しづつ変化の兆候がある。
とはいえ、未だ、リクオがハルと榀子とどっちとくっつくエンディングとなるかは不透明な節があり、目が離せない。
加えて、長い連載期間のために、絵の上手さ、演出の上手さ共に半端無い冬目先生の進化の歴史としても興味深いものがある。個人的には4巻以降に一気にレベルが跳ね上がった感があるかと。榀子先生は1巻とは同一人物かどうか分からないくらいのモデルチェンジをしてしまった(笑)。
オレにとっては、『イエうた』はもはや生活の一部である。休載していても掲載されていても常に心に引っ掛かっている。もし好きな本の登場人物になれる道具があったら、是非『イエうた』の世界に入りたいです(意味不明)。
完璧に冬目信者である私ですが、この思いを共有できる人とは仲良くできるであろうよ。