カテゴリ:小説( 4 )

ハヤカワ文庫JA
2005年


『よくわかる現代場法』シリーズの桜坂洋の非ライトノベル作品である。

Aボタンをクリック。ぼくはテツオになるーー現実への違和感を抱えた大学1年の坂上悦郎は、オンライン対戦格闘ゲーム<バーサス・タウン>のカラテ使い・テツオとして、最強の格闘家を目指していた。大学で知りあった布美子との仲は進展せず、無敵と噂される辻斬りジャックの探索に明け暮れる日々。リアルとバーチャルの狭間で揺れる悦郎は、ついに最強の敵と対峙するが……(裏表紙より)。

ちょうど1年ほど前に読んだ小説であり、初めての桜坂作品であった。
お気に入りの小説である。


私がこの小説を手に取ったきっかけは、toi8による表紙に惹かれたからである。e0128729_0145733.jpg

本編のワンシーンであるUFOキャッチャーの前に立つ悦郎と布美子を描いたものであるが、カラフルなのにどこか殺伐としており、何より布美子と悦郎の表情がとても魅力的であった。


さて、『スラムオンライン』の内容についてであるが、その最大の特徴は、現実世界とネットゲームの世界が交互に描かれる入れ子構造になっていることである。

現実世界で、悦郎と布美子が“幸せの青い猫”を探すプロセスと、ネットゲームの世界でテツオが辻斬りジャックを探すプロセスがリンクしているのだ。
ここで面白いのは現実世界はどこかリアリティーが欠如して描写されているのに反し、ネットゲームの世界は偽者であることを強調しながら、生き生きと描かれていることである。

常に安っぽい青空の世界、同じ表情から動くことのない人々。しかしながら、そこではプレイヤーからも独立したキャラクターたちによる社会が形成されている。

悦郎がヴァーチャルの世界から、現実世界で大切なものを悟っていくことになるプロセスは、ある種、アニメ『電脳コイル』にも通ずるものではなかろうか。


また、『スラムオンライン』の魅力として、格闘ゲームの戦闘シーンの面白さが挙げられる。

空中コンボの描写や、勝敗が決する場面の描写は、まさに格闘ゲームをプレイしている感覚である。
『よくわかる現代魔法』でもみせたオタクとして桜坂洋の一面がフルに出ていると思う。


さらに、作者の嗜好がふんだんにつまった布美子も魅力の一つであろう(笑)。
桜坂洋はメガネフェチとされているが、『スラムオンライン』においても眼鏡に関する描写が数箇所見られる。また仕草や喋り方に彼の嗜好なのではないかと思われるものが随所に見受けられ、ライトノベルにおける“萌”とは違ったキャラが形成されている。
布美子は、私の今まで読んだ小説における最も好きな女性キャラだったりするのであった(笑)。


さて、『よくわかる現代魔法』が2009年にTVアニメ化されるらしいが、『スラムオンライン』もアニメ映画化されたりしないだろうか。

そういえば、半年ほど前に発売された『よくわかる現代魔法』第1巻の書き直し編集版のあとがきに「2008年夏に、『よくわかる現代魔法』の最新刊をお届けすることを約束する」とかって書いてあったはず。
…今、何月?

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by dentaku_no_uta | 2008-11-08 00:12 | 小説

『七胴落とし』

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神林長平、1983年の長編。デビューしたのが1981年だから初期の作品だね。


予備校に通う三日月は、19歳の誕生日を間近にひかえ、言いしれぬ不安に苛まれていた。大人になれば、他人と意識を共有できる感応力が失われてしまうのだ。同級生たちの危険なゲームに誘われる三日月。その身辺に現れる現実とも幻ともつかない少女・月子。崩壊していく現実感覚のなか、祖父が所蔵する妖刀“七胴落とし”の鋭利な死のイメージに囚われていく三日月であったが…(裏表紙より)

この前読んだ『戦闘妖精・雪風(改)』がメチャメチャ面白くて、図書館で借りてくる。小説で全作品読んだ作家って今のところいないんだけど、神林長平は全部読んだみたいな。

自分の読書の嗜好がイマイチ分からなくて、色んなジャンルをちょっとづつ読んでみたけど、結局SFに一番興味があるみたい。
最近何冊か読んだ小川一水もハードSFの新鋭だし。


っていうか、ラノベないしジュブナイル小説とか読みやすい文体のものばかり読んでると、こういったガチガチでグニャ~とした文章読むとそれだけでやられてしまう。
特に『七胴落とし』は『戦闘妖精・雪風』と違って“ワケのわからない世界”なんで酔ってしまいそうだったよ。映像化したら凄いことになりそう。

現実と虚構の区別がつかない世界は、砂上の楼閣の上でブレイクダンスを踊っているようで、もの凄く自分を不安にさせる。
映画だったら『アンダルシアの犬』、アニメだったら今敏の『パプリカ(筒井康隆の原作も)』『妄想代理人』、あるいは『エヴァンゲリオン』の最後のほう、小説だったら内田百閒の短編。
そういった作品はホラーと違った恐怖を感じながら、とても魅力的だったりする。

どこからが現実で、どこからが幻なのか。この作品でもまったく分からない。もしかしたら全部現実なのか、全てが妄想なのか。
何故、七胴落としは家にあったのかー。分からない分からない。

そもそも設定の基礎の“予備校”が曲者。ここで言う予備校とは高校を卒業していながら感応力を失っていない少年少女をある種監視するための場所。

この世界では子供と大人は明確に区別されている。感応力があるかないか。

と少なくとも三日月は思ってる。大人は醜いと唾棄しつつ、自分が大人になることに激しい恐怖心をいだいている。
要は彼は餓鬼なんだよね。周りの大人もそれを知っている。けど彼は頑なに認めず、相手をただひたすらになめている。
筒井康隆の『愛のひだりがわ』では不思議な力を子供の能力として、それを喪失することこそが大人になることだったけど、感応力の有無は、実は些細なことに過ぎないんだと思う。体が大人になる過程の変化の一つにすぎないんじゃないだろうか。
感応力があっても大人となっている人もいるし、いくつになっても子供のままの人もいる。(皮肉なことに三日月自体がそれを証明することに)。

にも関わらず三日月が感応力に固執して、“大人”になることに恐怖するのは力を失うことに恐れていたのではなく、自分という存在の小ささを実感させられる大人の世界へ入ることへの不安と、また自分がなめられる立場になることへの焦り、要はプライドがためだったのだと思う。

正直なところ、自分はあまり「大人は汚い」とか「大人になりたくない」とかあまり思うタイプじゃなかった。まぁ別に大人を尊敬していたわけでもないけど、子供と大人をあまり区分するような子供ではなかったと記憶している。必ずしもポジティブな理由からでもないが、大人になることに嫌悪感はなかったし、今でもない。
といってもいまだに大人になりきれず、ウダウダやってるんであまり大したことは言えないけど…。

まぁ話がそれたけど、何が言いたかったかと言うと、三日月に全く共感できなかったということが言いたかったんだよね。まったく共感できないけど、どうなるのか気になって読み出したら止まらなかった。


誕生日おめでとう。

その扉の一言が印象的だった。

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by dentaku_no_uta | 2008-03-27 01:24 | 小説

『時砂の王』

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小説の欄を作っておきながら、『第六大陸』から更新されることはなく。
久しぶりに更新。

今回も小川一水です。

西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼を救った“使いの王”は、彼女の想像を絶する物語を語る。2300年後の未来において、謎の増殖型戦闘機械群により地球は壊滅、さらに人類の完全殲滅を狙う機械群を追って、彼ら人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。そして3世紀の邪馬台国こそが、全人類史の存亡を懸けた最終防衛線であるとー。(裏表紙より)

まずは表紙にやられた感じだったな。いかにも未来なボディースーツを着た男の横に立つ古代日本人の女性。
自分は古代日本に対してロマンを抱くタイプの人間らしい笑。


この『時砂の王』で小川一水作品は『老ヴォールの惑星』『導きの星』『強救戦艦メデューシン』『第六大陸』『イカロスの誕生日』に続いて6作品10冊目なんだけど、今までの中で一番面白かったな。
まぁもともとSFのジャンルの中では時間ものが一番好きだってのはあると思うけど。
いわゆる時間SFの論理が破綻した時点で終了な上に、解決しても「ん?ん?」って不思議な感覚になるところが好き。
といっても『涼宮ハルヒ』だったり映画『サマータイムマシーン・ブルース』くらいの軽さのものが好きで本格的なものはあまり読んだことないんだけどさ笑。


今まで小川一水の作品読んでると、面白いんだけどラストが綺麗事だらけになっちゃうのがどうかなぁと思ってたんだよ。
こう何ていうか、キャラクターが清すぎるんだよね。清濁合わせ飲む迫力が無いっていうか。

『時砂の王』は明確な敵キャラが最後まで出てくるから、骨太感がグッと上がったと思う。

特徴だった細々と色んなことにまで描く文章が今回は随分あっさりになっている。あの細かさはあれで良いと思ってたんだけど、ばっさり切ると相当読みやすい。
ページ数も280ページとコンパクトで良い。


あぁ、それにラストが熱い!スペクタクルものの映画のようだ!
戦闘シーンで卑弥呼が魅せるリーダーっぷりに胸が熱くなるぜよ。

こんな風に卑弥呼をお転婆の少女として描く作品も珍しいよね。

SF大好きな人からすると、時間枝の諸々に物足りなさがあるみたいだけど、オレのレベルからすると、かなりよく出来た作品だと思う。

興味ある人は読んでみてください。

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by dentaku_no_uta | 2008-03-21 00:32 | 小説

『第六大陸』

最近、小川一水の小説にはまってます。
まぁまだ読み始めてからそんなに経ってないから、4作品のべ9冊しか読んでないけど、今日はその中の1作から。


個人的に小川一水の魅力は①アイディアレベルでの差別化②徹底的に描かれたデティールにあると思ってる。

基本的にSFを舞台に、人とは若干違う視点で物語を書くんだよね。
それにとにかく科学技術の描写が細かい!その正確さは文系の自分にゃ分かりもしないけど、こだわって創ってある感じがとてもいいと思う。


で『第六大陸』はどんな話かというと、2025年から10年計画で建設会社、レジャー企業、民間のロケット会社が月に結婚式場を作ると言うお話。

小川一水はジュブナイル小説もたくさん出してるけど、この作品は一般にハードSFに分類されている本格派。

世界一の技術力を誇る後鳥羽創建、画期的な新型エンジンのアイディアがありながら資金不足で実現できない天竜ギャラクシートランス社が真の目的がイマイチ分からない依頼主のエデン社とともに壮大な計画に挑んでいくプロジェクトX的な展開が熱い☆。

最初の中国の月面有人基地の視察からはじまって、6分の1の重力下での想定されるさまざまのシチュエーションが物語に織り込まれていて、まぁ細かい細かい!
このリアルさが良いんだよね!


ちなみに主人公は後鳥羽総建の技術屋・青峰走也とエデン社の会長の孫娘・桃園寺妙の二人。
物語の冒頭では13歳だった妙はエンディングでは24歳にまで成長。最初は萌えキャラみたいだったのにもラストではすっかり幼さも消えた大人に…。


自分的には圧倒的な資金とノウハウを持つNASAとの直接対決とか初の死亡事故あたりが読み応えがあって好き。



全体的にバランスもいいし、好きな小説の中なんだけど、物語設定の緻密さに比べて人物にあまりリアリティーが感じられないのがやや難かな。
個性あるキャラクターがステレオタイプにはまっててどこか漫画的なんだよね。
特に桃園寺一家のキャラ付けが気になった。

同じくハードSFに分類される『導きの星』ではそこまで気にならなかったんだけど、設定だけじゃなくて物語自体がリアルになっている分だけ、よりキャラクターが浮いちゃってると思う。


まぁそうだからこそドラマチックな展開になってるって一面もあるだろうから一長一短なところではあるんだけど。


とりあえず、『第六大陸』と並ぶ代表作『復活の地』は遠からず読むつもり。
こちらは他の惑星での災害復興物語。楽しみです。

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by dentaku_no_uta | 2008-02-10 00:24 | 小説