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『スラムオンライン』/桜坂洋

ハヤカワ文庫JA
2005年


『よくわかる現代場法』シリーズの桜坂洋の非ライトノベル作品である。

Aボタンをクリック。ぼくはテツオになるーー現実への違和感を抱えた大学1年の坂上悦郎は、オンライン対戦格闘ゲーム<バーサス・タウン>のカラテ使い・テツオとして、最強の格闘家を目指していた。大学で知りあった布美子との仲は進展せず、無敵と噂される辻斬りジャックの探索に明け暮れる日々。リアルとバーチャルの狭間で揺れる悦郎は、ついに最強の敵と対峙するが……(裏表紙より)。

ちょうど1年ほど前に読んだ小説であり、初めての桜坂作品であった。
お気に入りの小説である。


私がこの小説を手に取ったきっかけは、toi8による表紙に惹かれたからである。『スラムオンライン』/桜坂洋_e0128729_0145733.jpg

本編のワンシーンであるUFOキャッチャーの前に立つ悦郎と布美子を描いたものであるが、カラフルなのにどこか殺伐としており、何より布美子と悦郎の表情がとても魅力的であった。


さて、『スラムオンライン』の内容についてであるが、その最大の特徴は、現実世界とネットゲームの世界が交互に描かれる入れ子構造になっていることである。

現実世界で、悦郎と布美子が“幸せの青い猫”を探すプロセスと、ネットゲームの世界でテツオが辻斬りジャックを探すプロセスがリンクしているのだ。
ここで面白いのは現実世界はどこかリアリティーが欠如して描写されているのに反し、ネットゲームの世界は偽者であることを強調しながら、生き生きと描かれていることである。

常に安っぽい青空の世界、同じ表情から動くことのない人々。しかしながら、そこではプレイヤーからも独立したキャラクターたちによる社会が形成されている。

悦郎がヴァーチャルの世界から、現実世界で大切なものを悟っていくことになるプロセスは、ある種、アニメ『電脳コイル』にも通ずるものではなかろうか。


また、『スラムオンライン』の魅力として、格闘ゲームの戦闘シーンの面白さが挙げられる。

空中コンボの描写や、勝敗が決する場面の描写は、まさに格闘ゲームをプレイしている感覚である。
『よくわかる現代魔法』でもみせたオタクとして桜坂洋の一面がフルに出ていると思う。


さらに、作者の嗜好がふんだんにつまった布美子も魅力の一つであろう(笑)。
桜坂洋はメガネフェチとされているが、『スラムオンライン』においても眼鏡に関する描写が数箇所見られる。また仕草や喋り方に彼の嗜好なのではないかと思われるものが随所に見受けられ、ライトノベルにおける“萌”とは違ったキャラが形成されている。
布美子は、私の今まで読んだ小説における最も好きな女性キャラだったりするのであった(笑)。


さて、『よくわかる現代魔法』が2009年にTVアニメ化されるらしいが、『スラムオンライン』もアニメ映画化されたりしないだろうか。

そういえば、半年ほど前に発売された『よくわかる現代魔法』第1巻の書き直し編集版のあとがきに「2008年夏に、『よくわかる現代魔法』の最新刊をお届けすることを約束する」とかって書いてあったはず。
…今、何月?

by dentaku_no_uta | 2008-11-08 00:12 | 小説