COMICリュウ
未単行本化
新人賞<龍神賞>出身・つばなの不定期連載中の短編連作シリーズ。現在発売中の12月号に6話目が掲載されている。
女子高生の高木さんと金村さん(通称・金やん)の二人組がSFチックな道具の溢れる不思議な世界で過ごす日常の話。
マイナー誌リュウに掲載されてる作品でイチオシのマンガである。とはいっても4話目から先しか読んでないから半分は読み逃しているのだが。
以下4話から6話の超簡単なあらすじを記す
【4】追憶の旅ーPromise meー
大掃除をしていたら“大切なもの”を無くしてしまった高木さんは、金やんを連れて、思い出したい時間の記憶を観れる<追憶屋>へと向かう…。(8ページ)
【5】デジタル天国ーExtra dates-
超プレミアのついたCDを貸していた、クラスメートの坪井さんが事故死してしまった!CDを取り返すため高木さんはデジタル天国へ行く…。(12ページ)
【6】食べたつもりガムーdayeat-
金やんより3キロも太っていることが悔しい高木さん。ご馳走を食べたつもりになるガムを駆使してダイエットに挑む…。(8ページ)
以上から分かるように、基本的に物語は高木さんが何かをしようとすることで始まる。ここで、高木さんは何故か常に上から目線で喋る人、金やんはいわゆる常識人のキャラクターである。
極めて短いページ数で起承転結をきちんとつける巧さが本作品の魅力であろう。
特に「デジタル天国」はそのアイディアも含めて秀逸である。
「デジタル天国」とは死んだ人間のデータを抽出・変換して保存している世界である。いづれ現実世界で【人工の体】が造られるのを待っているらしいが、当面は親の完全な監視下で暮らすことになっている。
この話はオープニングから面白い。
担任「はい 席着け~
えー 出席を取る前にお知らせがあります
昨晩……事故で入院していた坪井沙希さんが
死んじゃいましたので日直は一人分繰り上がって 次 戸川だから今日よろしく」
戸川「えー!坪井のやろう!!」ガガーン
この倫理観もへったくれもない世界で、生死を問う壮大なテーマっぽいのになされるのはスケールの小さい話。それでも、ちょっといい話の雰囲気も入れつつ綺麗なオチをつける。
巧い。
方向性としては藤子F先生の巧さに似ている。最近の作者では石黒正数が近いか。
10月号、11月号、12月号、さらに今月19日発売の1月号に掲載されているのに、扱いは何故か不定期連載。
本連載化が望まれる。
そして、このショートコミックはいつ単行本化か出来るだろう。09年に出来るのか?
今後が注目の作者・作品である。
余談だが、各話の後につけられてるサブタイトルは森博嗣の影響であると予想している。つばな先生は森作品を愛読しているようなので。
アフタヌーン
既刊1巻
女子柔道モノです。
木村紺というマンガ家、得体が知れない…。
デビュー作は『神戸在住』(アフタヌーン、全10巻)であるが、この作品では引越し先の神戸で大学生活を送る女子学生の生活を、大震災からの復興の様子を絡めて描かれている。
『神戸在住』の大きな特徴として、絵日記のようなシンプルな絵柄(実はかなり技巧的だが)で、等身大の人物の生活を丹念に表現されていることがあげられる。
膨大な数に上る登場人物、ストーリ性が無いようでよく練られた物語…、フィクションであることが信じられないようなリアルな演出が素晴らしい作品である。
…が!
『神戸在住』の連載中に連載が始まった『巨娘』(既刊1巻、11月7日発売のアフタヌーン増刊より復活予定)という作品。
なんとこちらは180センチoverの“巨娘”ジョーさんを主人公にしたギャグマンガ。
スクリーントーンの使用が見られるくらいで絵柄はあまり変わらないが、ぶっ飛んだキャラクターがわんさか出てくるハイなマンガである。
そして
現在連載中の『からん』は学園スポーツモノである。
立体感のある絵柄と動きのあるコマ割に一気に変更。
作風変わりすぎ!
幅広く色んなジャンルのマンガを描く人は結構いるが、ここまで作風が毎回変わるのはもはや異常!
一体、木村紺の核はどこにあるのか。
そして、何より凄いのが、ここまで大幅な作風の転換がありながら『からん』がメチャメチャ面白いことである。
今現在、最も熱中している作品の一つ。
連載開始前の導入の部分で既にかなりの数の登場人物が出てきているが、ここら辺に『神戸在住』で培ったキャラの使い方のノウハウが活きてきそうだ。
導入の0章で出てきた人物に未だ10人も本編未登場のキャラクターがいる。(ちなみに0章で登場して、いままで出てきたキャラクターは12人、他主人公である高瀬雅及び九条京のクラスメートが1巻収録分に数名登場…やはり多い)
これから随分物語が進まないと出てこないのではないかと推測される人物も複数名存在し、これからどう進展していくのか気になるところである。
そして何よりも、『からん』の何よりの魅力は木村紺の織り成す天才的なストーリーテリングである。
中学生の44kg以下級で京都2位の実力を持つ高瀬雅は、弱小ながら主将を高校48kg以下級で全国大会優勝候補の大石萌が務めるお嬢様学校・望月女学院に進学する。
クラスメートの小柄な美少女・九条京を初めてみた時に、高瀬は自分と九条が夏に野原で向かい合ってる謎のヴィジョンを観る。
柔道部に参加するにあたって、高瀬は何故か気になる九条と、他二人のクラスメートを勧誘して連れて行くことに。
常に嫉妬されながら生活してきた過去からなのか、高一にして巧みな世渡りの術を持つ高瀬とどこか不思議な雰囲気を持つ小柄な少女、九条。
まだ部活に入り始めたばかりで物語の序盤も序盤の場面であるにも関わらず、軽快な台詞回しと巧みな感情表現で、読者(というか私)をぐいぐいと引き込んでいく。
雑誌を買って読むことの楽しみを久々思い出した。
コロコロを買っていた小学生の頃のように、毎月『からん』の続きが気になってしょうがない。
あぁ木村紺は天才なんだなぁとぼんやり思う今日この頃である。
超低ヒットブログ、4ヶ月ぶりにご帰還。「待ってねぇよ」の大合唱。
先日、押井守監督最新作『スカイクロラ』を観てきた。
方々で貶されたり褒められたりしてる当作品。個人的には凄く良かった。というか、ここしばらくに観たアニメ映画の中では一番のお気に入りだったり。
「つまらなかった」という人のほとんどの言い分としては「わけわかんねぇよ!」っていうとこが大多数をしめてると思うんだよね。
えぇまぁでっっっかい「?」が常時出ているような状態でしたよ。
言いたいことがあるのはわかるんだけど、何が言いたいのか分からない笑。
テーマは「戦争」?それとも「子供」?
両方とも劇中で何度か強調されていたけど、よくわからない笑。
ただ原作に忠実な流麗な台詞回し、大迫力の戦闘シーン、象徴的・官能的な映像に圧倒されて、それだけで十分お腹いっぱい。
とりあえず分からなかったなりに考察を。
一、ミズキについて
父親はジンロウですよね?“ティーチャー”という説もあったみたいだけど、自分はジンロウだと思う。
娼婦のフーコが「スイトが昔、自分の客を奪って何時間も出てこなかった」ということを言っていたけど、ジンロウはフーコの客だったんだから、この時のスイトの相手がジンロウで、妊娠したと考えられる。
だからこそ、ジンロウの生まれ変わりであるユーイチにミズキは懐いていたのではないだろうか。
大人にならない母親を娘はどう思っているんだろう。
劇中、ミズキの手をとるスイトの画がアップで出るシーンがあるが、あのカットにスイトの母性が出ているようで面白い。
スイトにはミズキを大切にする母としての想いがあるにも関わらず、自分は永遠に若いままであり、いずれミズキは自分より大人になってしまう。それがスイトをより圧迫して追いつめていっているのだろう。
二、“ティーチャー”について
ショーとしての戦争のバランスをとるために存在する絶対に倒せない敵。唯一の大人のパイロット。
何故にスイトとユーイチは無謀な突撃を仕掛けたのか?これは“ティーチャー”を越えていくことに意味を見出していった結果であると考えられる。
永遠に変化のない生活を送り続けるキルドレ。“絶対の存在”という無変化の象徴であり、大人である“ティーチャー”を撃破、乗り越えていくことで“変わらない”という運命をも打ち破ろうとしたのではなかろうか。スイトは自分、あるいはミズキのために。ユーイチはスイトのために。
三、キルドレについて
他の基地のエースパイロットであるミツヤはキルドレのことを「空で死なない限り何度も生まれ変わるらしい」と説明していた。しかし撃墜された湯田川は即転生して帰ってきてくる。ここまででは撃墜された後、海に沈没して死んだから、空では死んでいないという解釈もできるが、さらにエンドロール後、明らかに戦闘機内で撃たれて死んだはずのユーイチが転生したことを意味していると考えられるシーンが示される。
これは何を意味しているのか?おそらくミツヤが信じていた情報に誤りがあり、キルドレは何があっても人生を終わりにすることが出来ないということか。
もしそうならば、あたかも鳴り止まないスイトの部屋のオルゴールのように、キルドレはひたすら変わらない人生を歩み続けなければならないということになる。
救いのない解釈であるが、ジンロウ=ユーイチとの出会いから運命を打ち破ろうとするスイトの、ラストの顔が希望を示しているという風に自分は考えたい。
まぁこんなとこでしょうか。書きながら頭を整理してみました。
自分が印象に残ったシーンはスイトが口紅をつけてユーイチの前に現れるところと、ネクタイを取るスイトの姿でしょうか。何かエロかったです笑。
他、部屋に入る陽、ランプの明かり、娼館の部屋の明かりとかそういった光源が印象的でした。
押井監督の作品なんで正直かなり難解。ただ見ていても何も分からないし、ある程度物語のアウトラインを理解するにも原作を読むのは必須だと思います。
映像化しにくい原作を、ラストを除いて忠実に映像化した監督の能力はホントに神懸ってますね。
そのままの流れで上映されていた『攻殻機動隊』の再編集版を鑑賞。一日二度目の押井作品に脳の容量を遥に超過。、思いっきり気持ち悪くなりましたとさ。…楽しかったんだけどさ。
『卒業』(67・米)
監督 マイク・ニコルス
出演 ダスティン・ホフマン(ベンジャミン) アン・バンクロフト(ミセス・ロビンソン) キャサリン・ロス(エレーン)
色んなところでパロディされてる有名な映画。自分的には昔、めちゃイケのスペシャルで武田真治と杉田かおるがやってたヤツが爆笑だった。
まぁ、とりあえずこれは美談じゃないよね…?
まず主人公であるところのベン君どうしようもないねぇ。大学時代に張り切った結果燃え尽きちゃうのは分からなくもないけど、かといって自分の好きな娘の母親と不倫の関係になっちゃ駄目でしょう。
周りのリアクションは当然だって。特に相手の父親がブチ切れるのは自明の理でしょう。娘と結婚させてくれるわけないし、
「奥さんと僕のやったことに意味はありません。握手みたいなものなんです」
なんて火に油を注ぐようなことを真剣に言っていちゃぁね。
…明らかにストーカーだし。
しかも感動のクライマックスであるところの結婚式の場面も、エレーンの婚約者がいたたまれなくてしょうがない。
せめて相手が、甘言を駆使してエレーンをたぶらかしてる最低野郎だったり、望まぬ結婚を強いられてるならまだ救いもあるけど、真面目な好青年な上にエリートで、しかも真剣に結婚を考えていたわけで。彼に一体何の非があるというのだろう。
まぁ監督は意図的にそう作ってるんだろうけど。
印象的なのは最後の最後だね。協会の十字架を振り回して、エレーンを強奪。二人で走ってバスに乗る!
で、二人で並んで座っているシーンがラストなんだけど、何か終止ヘラヘラしてるベンの横に座るエレーンの顔からフッと笑顔が消えるんだよね!
いやぁ上手いね!
「これで良かったのかな…?」
って感じが凄い出てる。
このシーンは「OK」出した後までカメラを回し続けるように監督が指示を出した結果出来たらしいんだけど、あのエレーンの顔があったからこそ『卒業』は名作なんだと思うんだよね。
これから観る人は是非注目してくださいな。
『よくわかる現代魔法』シリーズ
桜坂洋のライトノベル作品。集英社スーパーダッシュ文庫で既刊5巻。一段落ついてから3年弱新刊が出てないが、まだ続くらしい。
タイトルは巻末についてた宣伝のページのキャッチフレーズからいただきました。
まぁアキバ系といっても泉こなた的なのがワラワラ出てくるわけじゃなくて、電気街としての秋葉原を全面に出した作品。
基礎となる設定が、「人間の肉体もコンピュータのCPUも同じく電気の流れる物体である」ことを前提として成り立っている。
つまりコンピューターのプログラミングで魔法を使うのが“現代魔法”という設定。コンピューターでは人間のような複雑なコード(プログラム)を組み立てることは出来ないが、同じコードをエンドレスに実行できる物量作戦が可能という利点がある。
ちなみにドラクエ的な魔法は“古代魔法”と呼ばれていて、効率が悪いため科学に取って代わられており絶滅寸前。
作者の桜坂洋は元システムエンジニアで、ゲームを含むコンピューター全体が趣味らしい、っていうか作品を読めば一発で分かる。
出てくるキャラクターが思いっきり作者の妄想を反映しているようで凄く良いと思うよ。
あとがきで自分がつくったキャラクターを「たん」づけで呼んでみたりするなかなか愉快な方です。
作中に突然
「そうだ。エミ。嘉穂は思い出した。彼女の名前は小野寺笑だったはずだ。たいした知り合いではない。(中略)ただ人工知能を搭載した伝説の十八禁ゲームに出てくるヒロインと同じ名だったので、嘉穂の記憶に彼女は鮮明に刻み込まれていたのだった。(4巻、30ページ)」
とかしれっと書いてあるから笑ってしまう。
他作品も自らのオタク嗜好をプッシュしたものが多くてかなり独特な世界観を持つ。2005年にハヤカワ文庫から出版された『スラムオンライン』もネットゲームを題材にした青春小説だったしね。
思い返せば昨年の11月。しばらく漫画ばかり読んでる。活字も読まねば、と思い本屋に行って手に取ったのが『スラムオンライン』だった。
自分の活字離れを止めた作品の作者ということで桜坂洋には実は結構思い入れがある。
『よくわかる現代魔法』シリーズは作者のデビュー作であると同時に唯一のシリーズもの。っていうかまだ全部で7冊しか著作がなく、そのうち5冊がこのシリーズなんだから占める割合はかなり大きい。
1巻ではまだまだ全体的に上手くないけどね、2巻以降はかなりレベルアップしていった感がある。300ページあった分量も2巻以降は200ページちょいと相当コンパクトな仕上がりになっていて読みやすいのも良い。
魔法を使った戦闘シーンがイメージが沸きやすい極めて視覚的な描写が多いのも特徴的(あるいはラノベ全体の傾向なのか?)。
最初は驚くほど目立たなかった主人公の森下こよみも3巻くらいになると随分とキャラ立ち。
シリーズ通してもっとも印象が強いのが3巻かな。
魔法で6年前の世界でプログラムのパスワードの手に入れるためにヴァーチャルリアリティの世界に森下こよみが飛ぶいわゆるタイム・パラドックスものなんだけど、これが凄いんだよね。
普通のタイム・パラドックスものと違って過去と未来がループしてるんじゃなくて、虚構の世界と現実がループしてしまっているんだもの。つまりここには現実世界も他の世界から観たヴァーチャルな世界でしかないという衝撃の事実が内包されていると思われ。
作中ではそれについては語られないけど、なかなか普通じゃない設定だよね。
締めとなった5巻もよかったな。
秋葉原を舞台にした魔法対戦。桜坂洋大爆発みたいな(笑)。
ラストはもう力技としか言いようの無い強引な方法で幕を下ろしたけど、物語り自体は面白かった。
新潮文庫刊の「七つの黒い夢」っていうオムニバスで番外編が書かれているくらいで新刊の情報なしっていうか単行本自体が3年近くとまったままになっている。別に引退したわけではないみたいなので、早く新作が出ることを願うばかり。
余談だが、『よくわかる現代魔法』シリーズのイラストを担当した宮下未紀もかなりレベルアップしている。表紙からだとよく分からないが、挿絵は別人のようになった。